1. はじめに
配送という日常の一コマに、斬新なデザインで大きな変革をもたらしたオランダの自転車メーカー、VanMoof。同社は、商品である自転車を無事に届けるため、ある大胆でユニークなアイディアを実行しました。それは、配送用の段ボールに「大型テレビのイラスト」を描くというものです。このアプローチにより、配送中のダメージを大幅に削減することに成功しました。
デザイナーとして、配送の現場でこうした工夫が施されることに驚かされた方も多いのではないでしょうか。私たちが普段目にする段ボールのデザインは、シンプルで機能的なものが多いですが、VanMoofのように発想を転換することで、デザインが持つ力を最大限に引き出せることが示されたのです。

2. VanMoofの配送用ボックスのアイディア
VanMoofは、電動アシスト自転車のブランドとして知られています。その特徴は、電動アシスト機能を一見では感じさせないスマートなデザインにあります。しかし、購入者のもとに自転車を無事に届けるには、配送中のダメージという大きなハードルがありました。多くの配送業者に頼んでも、配送の過程で傷やゆがみが生じる問題が絶えなかったのです。
大型テレビのイラストがもたらす効果
そこでVanMoofが思いついたのが、配送用ボックスに大型テレビのイラストを描くというアイディアです。大型テレビは高価で壊れやすいものとして認識されており、配送業者も丁寧に扱います。そのため、段ボールにテレビのイラストを描くことで、配送業者が中身に対してより慎重に対応してくれるという狙いがありました。
デザイナーから見たこのアイディアの魅力
デザイナーの視点から見ると、これは単に見た目を工夫しただけでなく、人々の心理に働きかける優れたデザイン戦略です。商品の保護という機能性と、配送業者の行動を変えるという人間心理の理解を組み合わせた、この一見シンプルなアイディアには、デザインの力が詰まっています。
3. デザイン思考で見る問題解決
デザインとは、単に美しく見せるだけでなく、問題を解決するための手法です。VanMoofの取り組みは、まさにデザイン思考の一例と言えるでしょう。
配送のデザイン:箱の外観がもたらす影響
配送ボックスの外観は、通常、商品の保護と情報提供のためにデザインされます。しかし、VanMoofはこれを一歩進め、配送業者の行動に影響を与える要素として外観をデザインしました。つまり、ボックスのデザインが単に受け手に情報を伝えるだけでなく、配送者の意識や行動に働きかけるツールとなったのです。

配送体験のリデザイン
このアイディアによって、配送の体験そのものがリデザインされました。従来の自転車配送では、単なる「モノの移動」として扱われがちでしたが、大型テレビのイラストによって「壊れやすい大事な商品を届ける」という意識が生まれ、結果的に丁寧な扱いにつながりました。デザインがプロセス全体を変え、ブランドと顧客の体験を向上させたのです。
4. VanMoofのアイディアに学ぶ
この事例から、私たちはデザインの力を再確認することができます。それは、単なる見た目や機能だけではなく、人の行動や感情に働きかけ、問題を根本的に解決する力です。
ユーザーエクスペリエンス(UX)の視点
VanMoofのアイディアは、ユーザーエクスペリエンス(UX)の観点からも優れています。購入者が期待するのは、新品の状態で商品が届けられること。それに対して、配送時に傷がついた自転車が届くと、購入者の満足度は大きく低下します。今回のアイディアは、配送の過程を見直すことで、購入者の期待に応え、満足度を高めることにつながったのです。
商品保護のデザイン戦略
また、商品の保護という観点からも、このアイディアは非常に効果的です。通常、商品の保護には梱包材や固定具が使用されますが、VanMoofは外装デザインによって配送者の行動を変え、間接的に商品の保護を強化しました。デザインが直接的な保護だけでなく、環境に働きかけて間接的に保護するというアプローチは、非常に新鮮で創造的です。
5. デザインがもたらすビジネスインパクト
VanMoofのこのアイディアは、デザインがビジネスに与えるインパクトの大きさを示しています。
コスト削減と顧客満足度向上
配送時のダメージが70~80%減少したという結果から、返品・交換にかかるコストが大幅に削減されました。また、購入者にとっても、商品が無事に届くことは大きな安心感をもたらし、ブランドへの信頼を高める要因となります。このように、デザインの工夫によってコスト削減と顧客満足度の向上を同時に達成したのです。
ブランドイメージの強化
さらに、この取り組みはVanMoofのブランドイメージを強化することにもつながりました。多くのメディアに取り上げられたことで、同社のクリエイティビティと顧客への配慮が広く知られるようになり、ブランド価値の向上につながったのです。
6. 他の分野への応用
VanMoofのアイディアは、自転車の配送に限らず、他の分野でも応用できる可能性を示しています。
配送以外の領域でのデザイン活用例
例えば、製品の陳列方法やパッケージデザインにも、このような発想を取り入れることで、顧客や従業員の行動を変えることができます。商品の魅力を引き出すためのデザインや、環境に配慮した包装デザインなど、デザインの活用は無限大です。
デザインによる新しい発想
今回のように、商品の機能や特徴だけでなく、周囲の環境や関係者の行動を考慮したデザインは、新しい発想を生むヒントとなります。デザインは単なる見た目の美しさだけでなく、人や社会に影響を与える力を持っているのです。
7. まとめ
VanMoofの配送用ボックスのアイディアは、デザインの力を再認識させるものでした。見た目や機能にとどまらず、心理的な影響や行動を変えることで問題を解決するデザインの力。それは、商品の魅力を高めるだけでなく、ブランドの価値を向上させ、ビジネスの成功に寄与します。
デザイナーとして、この事例から学べることは多いです。私たちが手掛けるデザインが、どのように人々の行動に影響を与え、問題を解決するのか。その可能性を常に追求し、新しい価値を生み出すことが求められます。
VanMoofの配送用ボックスは、デザインが持つ力を最大限に活用した、まさに天才的なアイディアでした。この事例を通じて、デザインの持つ可能性とその力を改めて感じるとともに、私たち自身のデザインにどのように生かすかを考えていきたいものです。

1989年福岡県生まれ。福岡大学応用物理学科卒業後、WEBデザインのフリーランスを経て、福岡のWEBデザイン会社で経験を積む。2013年に独立し、goapとしてロゴやWEB、パンフレット、名刺、パッケージ、のぼり、看板など様ざなまデザインからマーケティング、コンサルティングを展開。受賞歴あり。2023年に法人化し、AIとメタバース事業も追加。株式会社goapを設立。